2022.GW 第20回 呉氏開門八極拳講習会

2022年4月29日~5月5日

本年もコロナ禍のため、呉連枝老師の来日はかないませんでしたが、老師より呉氏開門八極拳の普及と学習者のレベルアップのためとお勧めを頂き、
【第二十回開門拳社主催 呉氏開門八極拳講習会】を開催することとなりました。

【初級~中級講座】
4/29(金・祝) ・4/30(土)・5/1(日)
初級の内容をしっかり練習し、中級へのステップアップをめざします。
(基本功、単式、小架、単打、六肘頭など)

【中級~上級講座】
5/3(火・祝)・5/4(水・祝)・5/5(木・祝)
呉氏開門八極拳の精華套路「四朗寛」を中心にプラスアルファを学び、さらなるレベルアップを目指します。

【コロナウイルス対策について】
・参加者には家を出る前に検温を義務付け、会場入口でも非接触式体温計で検温をしています。
・会場入口に各種消毒液を用意し、出入り時ほか随時、手や器械の消毒に使用しました。
・講習会では常にマスクを着用しています。
・会場は常に換気をし、休憩を多めにし、マスク着用の疲労を軽減しました。
・ソーシャルディスタンスに留意して間隔を広めにとっています。

※近接写真の撮影時は喋らないことを徹底、集合写真の際もマスクを取りつつ、同様に喋らないことを徹底しています。

両儀 いちばん上へ 両儀

両儀 初級~中級講座 両儀 両儀中級~上級講座 両儀

両儀 いちばん下へ 両儀

【初級~中級講座】

基礎講座が始まりました。開門八式を服部先生と指導員がチェックします。

小架一路のひとつひとつの動きを、腕の角度・足の位置など細かいところまで丁寧に指導します。

第20回開門拳社主催ゴールデンウイーク講習会の感想


1 はじめに

講習会は前半3日間の「初級~中級講座」と後半3日間の「中級~上級講座」にわかれて開催され、私は初心者なので(八極拳歴4か月)、前半3日間に参加しました。
3日間で主に基本功、単式、六肘頭、小架、単打を教えていただき、非常に中身の濃い講習会でした。
練習場所は学校の体育館で、初日はどこから入ればいいか迷いましたが、見るからに八極拳を練習していそうな男性が遠くに見えたので、追いかけていくと無事に会場に到着できました。
1日目と3日目は雨が降り、少し肌寒さを感じる気候でしたが、体育館の中はやる気と熱気に包まれていました。
以下、各練習の感想を述べたいと思います。

 

2 基本功

基本となる馬歩両義頂肘功や四六歩の練習を行いました。
同じ姿勢を取り続ける練習ですが、腕や腰の位置を正しい位置に修正してもらうと途端に姿勢を保つことが辛くなりました。自然と楽な間違った姿勢になってしまっていたことがわかり、正しい姿勢を取り続けることがこんなに辛いのかと驚きました。
そして、一見簡単に真似できそうなものでも、正確に真似することが難しいと実感しました。
本やビデオで自己流に練習しても上手くなれないというのはまさにこういうところであり、服部先生や指導員の皆様に教えてもらえてありがたいと感じました。

 

3 単式

(1)上歩拳などの単式を連続する練習を行いました。
横2列に並び、1,2という号令とともに一斉に打ち込むと、静かな体育館に行気と足音が響き渡り、とても壮大でした。
普段の大森教室では、教室の端から端まで6回くらい連続して行うと教室の端までたどり着いてしまいますが、体育館は大森教室の何倍もあるので1往復するだけで相当な練習量になりました。

(2)2日目はミットに打ち込む練習を行いました。
普段、空気中に打ち込んでいると、強く打ち込めている気がするだけで実際に力が伝えられているのかよくわかりませんが、実際にミットに打ち込んでみると力が上手く伝えられていませんでした。
腰や足の使い方など、見直さなければいけない点がよくわかったので、自宅にサンドバッグがあればいいのになと思いました。

 

4 六肘頭

六肘頭という2人で行う実践的な練習を行いました。
「相手の顔を狙うんだ」と言われても、最初は当たってしまったらどうしようと委縮してしまいましたが、一緒に練習してくださった指導員の方がとても信頼できる方だったので、最後のころは思い切り練習できました。

 

5 小架一路、単打

1日目、2日目に小架一路、3日目に単打の練習を行いました。
私はこの講習会で初めて小架一路や単打(以下、合わせて「套路」といいます。)を習いました。
服部先生が丁寧に教えて下さり、また、指導員の方々も付きっ切りで教えて下さったので、一つ一つ理解しながら流れを覚えることができました。
また、六大開理論という力の出し方を教えていただき、套路の練習において意識しなければいけないところを最初から把握した上で習うことできたので、覚えやすかったです。
服部先生から最後に「できるには段階があるから大丈夫。みんなとできる、一人でできる、一人で上手くできる。」とのお話がありました。この講習会で第一ステップの「みんなとできる」が達成できてとても嬉しかったです。

 

6 最後に

短期間に集中して練習すると3日間はあっという間に過ぎてしまいました。
たくさんのことを教えていただいたので、それをできる限り吸収し、今後の練習につなげていきたいと思います。
服部先生、参加者の皆様、本当にありがとうございました。


大森教室 K.T.

 

実戦での使用法を教示する服部代表。

服部先生による、小架一路のフォーム修正。

当会が作成した、小架一路の資料を使っての学習。

初級~中級講習会にご参加の皆様、お疲れ様でした!

 

両儀両儀  両儀両儀

両儀 いちばん上へ 両儀

両儀 初級~中級講座 両儀 両儀中級~上級講座 両儀

両儀 いちばん下へ 両儀

【中級~上級講座】

四朗寛や四朗提を学習します。

・はじめに

この文章は2022年ゴールデンウィーク期間中に行われた呉氏開門八極拳講習会の感想を書いたものです。
自分は5/3, 5/4, 5/5の三日間行われた中級~上級講座に参加しました。
内容としては去年習った四朗寛の復習と、新たに四朗提という套路を学習することができました。
今年は長く続いたコロナ禍の中でようやく回復の明るい兆しが見え始め、マスクは相変わらずですが生活も徐々に普段通りになっていきました。
世界情勢はウクライナ危機や円安、資源高など不安要素も多いですが、身の丈に合わせてできることを続けていけばきっと光も見えるでしょう。
今回は講習会の場所は新しく新築された広い小学校の体育館で行うことができ、気持ちよく体を動かすことができました。

 

・四朗寛

残念ながら呉連枝老師の来日は実現しませんでしたが、老師の筆による手書きの四朗寛の解説文章を読むことができました。
また套路の形式も一つ一つ書いていただいたので学習する上で非常に助かりました。
四朗寛の四とは四方を意味し、朗寛は清らかで明朗であることが深く遠くまで広がっていく様ということでした。
つまり複数人の相手に囲まれた状況を想定した套路であるという説明を受けました。
小架、単打といった一般的な八極拳の套路は直線的な拳路なのに対して、四朗寛は縦横無尽に移動するのが特徴的です。
実際にやってみるとわかるのですが、とにかくあちこちに歩き回る套路だなあという実感がわいてきます。
特に円の動きを豊富に含んでおり、見えにくいですが足さばきなどにも円の要素が含まれています。
実際に技を使ってみる対練なども行われたのですが相手を引き込むような動作は難しく上手くかけるには相当練習が必要だなと痛感しました。

 

・四朗提

今回新たに習う套路の四朗提は名前だけは聞いたことがありましたが、実際に目にして習うのは初めてでした。
長い套路なので覚えられるか不安でしたが、四朗寛と共通する動作が多く意外と早く順番を覚えることができました。
閻王三点手など、これまでの套路で出てこなかった動作もあるのですが、探馬掌のようによく似た動作を事前に学習していたおかげで違和感なく頭に入れられました。
難易度が高い要素としては四朗寛に負けず劣らず複雑な身体操作がいくつも含まれていることだと思います。
四朗提の提は呉氏開門八極拳の六大開理論にもある上方向に向かう力を意味します。
飛び上がって足刀蹴りを放つという、低い蹴りしか無いという八極拳のイメージからはかけ離れた高難度技も特徴的です。
しかし今回自分が最も難しいと感じたのは、野馬抖鬣という馬がたてがみを震わすという意味の技です。
一朝一夕で身につくものではなく、おそらく何年か修練を積まないと技がかかる感覚をつかむことすら出来ないのではないかと推察しています。

 

・四朗寛と四朗提

四朗寛と四朗提はどちらが高級かとかそういった差はなく、小架一路、二路のように順番に覚える套路といった意味合いで同格であるという説明がなされました。
実際にやってみると拳路はかなり違うものの、共通した動作が多く兄弟のような套路であると感じました。
自分の中でなんとなく比較して違いを考えてみると、四朗寛はフットワークしながらの攻撃、四朗提は体全体を上下に動かす複雑な動作があることが挙げられます。
服部先生の説明によると四朗寛とは円の動きであり、四朗提はそこに上下が加わった球のような動きがある、ということでした。
幾何学的にはX軸Y軸の二次元のグラフの世界にZ軸を加えた三次元の座標で計算をすることに似ています。
基本的に人間の認知能力というのは平面的であり、例えばTVゲームで2Dゲームは得意だけど3Dゲームは苦手という人は結構います。
これはおそらく三次元的な処理を脳内で処理するときに情報量が多すぎることに起因しています。
実はTVゲームでも画面は2Dなので3Dの物体を遠くのものは小さく、近くのものは大きくするといった処理を経て二次元座標に落とし込んでいます。
最近増えてきたVRデバイスだと3Dの物体をそのまま現実世界のように三次元的に捉えることができますが、慣れてないと脳の処理がオーバーして酔ってしまう人がほとんどでしょう。
個人的にはいきなりVRに行くのではなく二次元のディスプレイに投影された映像で徐々に慣らしていくのを推奨します。
情報量の制御ということからも套路を四朗寛、四朗提の順に覚えるようになっているのは非常に理にかなっています。
よくSF映画などで四次元空間を移動できると三次元空間をワープするように移動できる描写があります。
これは二次元の紙の世界で三次元的に紙を曲げて離れた場所をつなげてしまうという説明がなされます。
武術においても相手の想定する次元を一つ超えた次元での動作は致命的な攻撃になりうるでしょう。

 

・致命的な攻撃

今回の講習会で四朗寛と四朗提の学習をやっていくなかで思い出したことがあります。
かなり以前、とある日本武道をやっていたとき組手でハイキックをまともに後頭部付近に受けたことがあります。
その瞬間ぐるぐると世界が回っていたことを今でもよく覚えています。
どうもかなり近い間合いで相対しており、足を頭付近まで上げるということが予測できず、軌道も死角の側面から後頭部付近に来たため見えないハイキックをくらったようです。
戦闘行為で攻撃をいかに当てるかという問題設定がされたときに、相手の視界、あるいは意識の外側をいかに突くかというのは必要な技術のひとつであると言えます。
これは個人的な考察ですが六大開の提とは単に下から上へのベクトルを表すだけではなく、避けにくい攻撃の性質を表しているのではないかということです。
八極拳の単打において下から上に拳を振り上げるような動作が、対打だと上から下に拳を振り下ろす動作に変更されている箇所があります。
人間の目は身体の上のほうについているので、下から上という重力に逆らった物体の移動軌跡は死角になりやすく対処しにくいのではないか?というのが自分の現時点での仮説です。
また複数人相手だと死角の問題はより深刻になり、そもそも相手全員を視界にとらえることが難しくなります。
四朗寛のテーマとして二人以上を相手にした体のさばき方を套路の中で体現している箇所が多いです。
複数人相手にいかに死角を無くすか?ということを考えるとより死角の少ない場所や見晴らしの良い場所など有利な位置を探して動き続けることになると予想できます。
四朗寛、四朗提の複雑なフットワークや身体操作はそうした状況を想定しているのではないでしょうか。

 

・おわりに

四朗寛と四朗提も実戦用法が含まれた套路ですが、所々で美しい所作を忘れずに!と先生から言われました。
呉氏開門八極拳のすべての套路では美しく演武するという要素が欠かせないように思います。
日本刀というのはその芸術的な形状の美しさと優れた文明の利器としての斬撃能力を持ちますが、どちらか一方だけだと魅力は損なわれてしまうでしょう。
同じように武術も現代社会の中で受け入れられるために単に殺傷能力を高めるだけのものではなく芸術品のような完成度を求めることも求められていると感じました。
四朗寛、四朗提という名前にも詩的な美しさがあり、そうした文化的な側面も呉氏開門八極拳の重要な魅力になっていると思います。
現代社会の中で武術を学ぶ意義とは人それぞれだと思いますが、開門、つまり凝り固まった頭を開いて普段の生活の中では気づかないような思想を学ぶことが思考の次元を一つ足すことにつながるのではないかと思います。

今回講習会を開くにあたって尽力された服部先生、事務局様、開門拳社の教練の方々に深く感謝いたします。
また四朗寛・四朗提の解説を書いていただいた呉連枝老師にもこの場を借りてお礼と感謝の意を申し上げます。

本部教室 M.T

 

中~上級講座では、ミットを使って打撃を体感する実戦練習も行います。

当会が作成した中~上級者用の資料を使い、座学を行いました。

套路の動作を分解し、実用方法を実演・解説します。

2022年ゴールデンウィーク講習会レポート

 去る4月29日より、ゴールデンウィークの講習会に参加させて頂くことができました。
前半三日間は初級中級、後半三日間は中級上級の講習内容で、特に後半には四朗寛の第二路、四朗提をご指導いただける機会があるとのことでしたので、自分の体力と相談することも忘れ、計六日間の参加を希望させていただきました。

 講習会の前半では站椿や歩法、開門八式などの基本功、小架、単打、六肘頭、六大開拳などについてご指導をいただきました。
毎回思うのは、基本功が初級というのは、単に教わる順序が最初の方だというだけで、本当に難しい部分はむしろ、この中にあるのではないかということです。
  複雑な套路や武器も教えて頂いて、当然のように巧くいかなくて、悩んだときの答えはだいたい基本功の中で見つかります。
また応用で学んだことは、基本功の中に持ち帰ることができるようになっています。

 例えば上歩掌のとき、対象に指先が届く瞬間に掌を煽り上げる、というお話がありますが、これは本当に難しいことで、いつまでたってもできるようになる気がしません。
もしかすると、対象に指先が触れたときの、自分の骨格の形に沿って、力の向きが変化している面もあるかもしれないと思っています。
  だとすれば、空打ちよりなにか物を打ったほうが理解が早いことになります。
ものを打つとき必要のない筋肉に、なるべく「仕事をさせない」ような骨格の形が軌道を決めていて、掌の動きもその影響を受けているのかもしれません。

 考え始めると迷宮に入り込んでしまいますが、後半の四朗寛や四朗提に至っては、理解が進むのに何年かかるのか、見当もつきません。
今回、呉連枝老師が書いてくださった拳譜と解説の資料を頂きましたが、四朗提にはもともと拳譜は存在せず、全て口伝と直接の指導によってのみ伝えられてきたそうです。
  私達が套路を見て理解できることはごくごく限られていると思いますが、ご指導頂いた中で特に印象に残ったことを、幾つか挙げさせていただきます。

 まず四朗寛、四朗提ともにですが、盤提に加えて掃腿や四封四閉の動作がとても多く含まれていました。
掃腿は基本的に径が小さくて速いものが多く、両腕を使って生んだ回転力を足に伝えている感じで、四封四閉も小さく速いですが、後ろ足をコンパクトに送って生まれた回転力を上半身に伝えているように見えます。
力の伝達方向が上下逆になっているだけで、どれも相手の安定を瞬時に奪うことが主眼の動作だと感じました。

 また八極拳には投げを打撃で行う、打シュワイという考え方がありますが、四朗提には禽拿を打撃で行うような動作が多く見られました。
これは相手の関節を固めるのではなく、破壊してしまうのが目的のように思われます。
動きはコンパクトで速く、優雅に見えますが、用法を想像するとなかなかに残忍で、なおかつ一人の相手に長く接触した状態を良しとせず、多人数を相手にするというコンセプトにも合致していると思いました。

 そして四朗提の後半には、全く同じコンビネーションが三回出てきますが、この組み合わせを他の套路や基本功では見たことがありません。
ごく普通の単招式を組み合わせただけで、それぞれの招式は何処でも目にするものですし、動作も美しいので、他の套路に出てきてもまったく不思議はないのですが、実際に動いてみると最初のうちは違和感が凄いので、練習したことのない組み合わせだとすぐにわかります。
  一度足を踏み変えた後は上歩しないのに、胯の切り返しは大きいので、近い間合から大きな力を出せる仕組みだと思われますが、このような一見地味に見える技術が、長い間秘密だったのかもしれません。

 また見るたびに絶望させられる野馬奔走ですが、徒手の套路で似た技術を探すのが難しく、武器の九宮純陽剣が若干参考になる程度だと思いました。
四朗提は四朗寛より劈掛の要素が強くなるとの事でしたが、純陽剣も劈掛から来ているそうなので、併せて練習すると良い効果があるかもしれません。

 他にも四朗提に関しては、今回はじめて公開された事実がいくつかあり、そのどれもが驚きの内容でした。
小架二路や単打の様な套路は、自分の体からいかに大きな力を引き出すかを重要視しているように見えますが、四朗寛や四朗提は、ある程度技術を持った人間に囲まれたとき、相手の出方にどう対処するかという、対人の技術が詰まっている様に感じます。

 四朗提は、それまで順序だけは何とか覚えている程度の状態でしたので、正直雲の上の套路のように思っていましたが、今回あらためてご指導を頂いて、少しだけ身近に感じることができるようになりました。
  ただ当然ながら初級、上級にかかわらず、まだ全く理解できていないことが圧倒的に多く、以下の段につきましては、講習会を通じて個人的に持った感想に過ぎないので、間違いも多いように思われますがご容赦ください。

 まず昨年に引き続き今回の講習会でも、八極拳の長い歴史の中で、呉連枝老師が公開に踏み切られるまでは、ずっと秘密であった内容に触れられています。
具体的に秘密であった内容をここに書くことはできませんが、それぞれ秘密になっていた理由はたいへん勉強になりました。

初見殺しで、見せると対策されてしまうもの。
原理を説明しているため、分析が可能になるもの。
繰り返し動作を多く含む、套路の形をした練功。

 初見殺しは、技術を見たことのない人が対応するのはほぼ不可能と思われるもので、たいがいはとても難しい基本功です。
初見で対処が難しい技術は、套路そのものを見せないか、套路の中に原理原型のままでは含まれず、変化としてのみ表れているようです。
  また原理を説明するものには、套路などのほかに口訣が伝わっており、理解を深めるためにはその双方が必要となりそうです。

 かつて表演のための套路には、同じ条件で一通りの技術を見せ合うため、二分間の縛りを設けたと考えられますが、二分間の套路には、繰り返し動作をあまり入れられる余地がありません。
  繰り返し動作が多い套路で二分を超過するようなもの、特に練功を繋げて套路にしたようなものは、一通りの技術を見せ合うことを目的とせず、繰り返し動作を抜き出して反復練習する素材の役割も持っているようです。

 これらの技術をある程度見せて頂いているならば、どの套路のどの部分を抜き出し練習するとよいか、目星をつけておきたいところです。
例えば套路冒頭のコンセプトを表現する難しい部分、また繰り返し動作になっていて、練習を始めた頃には全く再現の覚束なかったところ、あたりを抜き出して反復練習することから始めてみたいと思っています。
  套路の中には、八極拳を理解し、強くなるために必要な情報が圧縮して編み込まれているはずなので、必要に応じてその一部を取り出し、繰り返し抜き出し練習することが、最初から想定されているように思われます。

 また単招式で抜き出し練習をしていても、一人で空打ちしているだけでは、仕組みが理解できないものが非常に多いと感じます。
対人で掛ける練習をさせてもらう、あるいは実際になにか物を打ってみる。
この過程で自分の体に返ってくる力や感触、相手の反応、といったものを見ながら、自分の動作を修正し続ける必要があります。
単招式の空打ちで形を真似る練習を土台とするなら、対象にどのように力を伝えるかという練習を上に重ねなければなりません。

 いっぽう武器の練習をする上では、その武器の性質を理解する必要が出てくるように思われます。
どこを押せばどう動くのか、先端まで力を伝えるにはどう操作すればよいのか。
  同じように対人練習を積むには、人の体の性質を知らなければならないと思いますが、自分が単招式で物を打つ練習を始めると、自分の体にいろんなことが起こるのがわかってきます。
沈肩墜肘を守らなければ体幹部の力は肩で途切れてしまいますし、肘が伸び切れば自分の関節を壊してしまいます。
  でも対人練習の相手が自分と同じ人間である以上、自分の体を練る過程で経験したことは、相手の体の中にも起きるはずです。

 講習会では四朗寛の順歩単提を対練する機会があり、相手の拳打を飲み込んで送り返すときに、相手の体幹部が回転して力が逃げてしまいます、と質問してみました。
それで思い出したのが、点子手のときの自分の肩と首の位置関係で、当てる瞬間に自分の肩の後方に首がないと、当たった反力で自分の体幹部が回ってしまい、力が逃げてしまうということでした。
  同様に相手の肩の延長線上に首がある状態であれば、腕に加えた力が逃げずに体幹部まで届くかもしれません。
先生のお答えは「位置取りを工夫する必要があります」とのことでしたが、位置取りを微妙に動かすことによって、自分から見た相手の肩と首の位置関係を整えてあげることも、可能になるのではないかと思いました。

 八極拳では、成招する瞬間に両儀になっていないといけないそうですが、両儀のことを架子と表現することがあり、これは日本語でいうと骨組みのような意味だそうです。
例えば両儀の骨格に注目すると、相手に力を伝達できて、相手の力を安全に受け止められるような、骨格の形が必要になるはずです。
  訓練をした人は手先の力より体幹部の力のほうが大きいので、自分と相手の体幹部の間にある骨格の形を工夫することによって、自分と相手の体幹部が、力で連結された状態へと持っていきたい、また可能であるなら、体幹部が直接噛み合った状態にまで相手に接近したい、ということになります。

 順歩単提では、自分と相手の肩の状態を似せることを考えていましたが、相手を全く逆の状態に持っていった方が良いこともありそうです。
沈肩墜肘は、自分の肩の縦の動きをフリーにすることで、体幹部の力を妨げずに相手に伝えるためにも重要な条件であると思いますが、相手の肩関節もフリーの状態だと、いくら相手の腕を動かしても、体幹部まで力が届かずに逃げてしまう可能性があります。
  逆に相手の肘と肩を持ち上げることができたら、相手の関節の自由度が減って、より奥の方まで力を伝えられるかもしれません。

 例えば小纏をかけるときに、相手からすれば握った手を離してしまえば良いのですが、かける直前に足を軽く蹴ってあげると、反射で一瞬握りが固くなるので、そこを狙うことで手首にかけやすくなります。
手首に効かせると相手の姿勢が崩れて、肘は逆に持ち上がるので、今度は肘にかけられるようになる。
肘に効かせると今度は肩が持ち上がって、という具合に遡ってゆくことが可能になるかもしれません。
  相手の体が硬直することによって、武器を操作するように、相手の体の奥まで力を伝えやすくなると思われるからです。

 先生は以前、武器の練習をしている人は常日頃から武器を手にとって弄っていないと、どんどん下手になってゆくと仰いました。
対人練習についても、日頃から人体に触れていないと、技をかける技術が衰えてゆくように思われます。
私達もコロナ禍の影響で、かなり長い間対人練習を封じられて、久しぶりに誰かと手を合わせると物凄い違和感があって、急速に感覚が鈍ってゆくことを思い知らされました。
  そうでなくとも、私達はもともと一人で練習する時間ほどには、対人練習の時間を確保できないのが現実です。
対練をしたければ教室まで出掛けていって、自分の練習に付き合ってくれる相手を見つけなければなりません。
  ですから、例えば一人で物を打つ練習をしているときにも、自分の体に起きることをよく観察しておく必要があるように感じます。

 呉連枝老師が対打を実演されると、相手の人は自分の体を操作されているような気がする、と仰います。
外から力を加えたときの人体の反射、外からの力に抗えない関節の方向、相手を誘導する心理的な技術などを組み合わせることで、武器を操作するように、相手の体をある程度操作できてしまうとしか思えません。
  人体は武器より遥かに複雑な構造をしていて、それぞれ自分の意志で動きますが、武器と同じように扱いに慣れることはできる。
仮にそれが実際に可能であるなら、おそらく「敵」という概念が揺らいでしまう気がしています。

 半分妄想のような話になりますが、相手が目の前に対峙しているとき、そこにいるのが敵ではなく単なる人体であるなら、それは自分の体と同じ構造を持っていて、自分の体で経験したのと同じ法則に支配されていることになります。
  自分の意志で動くけれど、その動きをある程度誘導することができ、力を加えることによって反射を引き出すことができる。
果たしてそういう対象に敵意を感じる必要があるでしょうか。
また敵意も脅威も感じていないような人の、動く気配を察知することはとても難しいように思われます。

 不思議なことに呉連枝老師に技を掛けてもらった方々は、飛ばされたり転がされたりしながら一様に笑っておられました。
逆説的に聞こえますが、武術を通じて相手に敵意を感じなくなってしまう事があるなら、とても興味深いことだと思います。
  一人で練習するときは相手がいるつもりで、実際に使うときは相手などいないつもりで、習熟すれば草を抜くように人を投げるといわれますが、これも一種の「無敵」なのではないかと思いました。

 今回の講習会を通じて、対人練習を指導して下さる先生や、対練に付き合ってくれる方々が、いかに貴重でありがたい存在であるかを痛感しました。
対打や六肘頭では、仲の悪い人同士は組ませないという話がありますが、怪我を防ぐためだけでなく、互いの上達のためでもあるように思います。
なにより同じ技術を求める人達と試行錯誤するのは、とても楽しいことだと思います。
  最後になってしまいましたが、今回の講習会を企画していただき、たいへん熱心にご指導くださった服部先生に、そして参加者の皆様に、こころから感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。

 

本部土曜教室 高須俊郎



四朗寬・四朗提講習会に参加して

私の様な練習の年月の浅い者が,レポートを書く機会を与えて頂きましたので,自分のための備忘録として四朗寬・四朗提の簡単な紹介と,それを練習した感想を書かせて頂きます.

 

四朗寬・四朗提は,呉氏開門八極拳の精華であると言われています.小架は,足腰などの基盤の養成や,基本的な発力法の養成であり,単打・対打は,基本的な歩法と技の使い方,技を掛け・掛けられる感覚の養成であり,そして,四郎寬・四郎提は,色々な状況に応じられる様な身体操法,強い足腰は当然のこと,体全身の柔軟性や機敏性を養成するものであると思います.小架・単打・対打が,主に一対一の敵を想定しているのに対し,四朗寬・四朗提は,さらに多人数の敵に対応する為の套路です.実際,小架・単打の様に行路が直線状だけでなく,ジグザグであったり,曲線状であったり,上下にも起伏がある,立体的な攻防技法から構成されています.

四朗寬・四朗提を学んで第一に思ったことは,小架,単打・対打,四朗寬・四朗提の関係性です.数学や物理学の様な科学の学習は,先ず定義から始まり,命題・定理を学び,それらを理解し身に付ける為に基本的な練習問題をします.さらに,テーマを異にする幾つかの命題や定理を使わないと解けない応用問題へと進みます.これが丁度そのまま,小架(定義・命題・定理),単打・対打(基本問題),四朗寬・四朗提(応用問題)の学習に相当しているように思いました.何事でも応用問題は難しいものですが,それが解ける様になるには,基本問題の学習や定義・命題・定理の理解が大切です.科学では,むしろ定義や基本定理が最も大事です.服部先生がおっしゃる,「四朗寬・四朗提は高級と言われていますが,だからといって小架は低級ではない.」という理由は,正にこの様な関係性があるからではないかと考えます.

これは私事なのですが,いつも八極拳の練習では,つい力んでしまい,練習後には,肩甲骨の辺りが凝ったり,腰方形筋が固くなって腰が痛くなったりしてしまいます.しかし今回の講習会の後では,腰痛など殆どありませんでした.これは,四朗寬・四朗提が,捻じったり,緩めたり,しゃがんだり,跳躍したりする様な,全身運動になっているからではないかと思います.四朗提では,いい歳になって久々にジャンプしました.四朗寬・四朗提には,この様な全身運動としての健身的な意義もあるのではないかと思っています.

最後に,まだコロナ禍が収まらない中,貴重な套路の講習会を開いて頂き,教えて頂きました,服部先生,事務局様,教練の方々に,深く感謝致します.


本部教室 大塚隆巧

武術専門誌「秘伝」の取材を受けました。「秘伝 2022年8月号」に、掲載されます!

ホワイトボードを使い、取材のテーマを示演・解説する服部代表。

秘伝誌のライターの方も、自ら呉氏開門八極拳を体験されました。

ご参加されたみなさま、お疲れ様でした!(集合写真の撮影時のみ、マスクを外しています)

  両儀 

まとめ

コロナ禍の中、2022年のGW講習会も、おかげさまで円満に終了致しました。

ご協力、ご参加された皆様、お疲れさまです。
テーマを決めて集中して稽古することが、今後の糧になることと思います。
レポートを書いてくださった会員の方々も、ありがとうございます!
これからもみんなで頑張りましょう!ありがとうございました!

開門拳社代表 服部哲也

両儀両儀  両儀両儀

両儀 いちばん上へ 両儀

両儀 初級~中級講座 両儀 両儀中級~上級講座 両儀

両儀 いちばん下へ 両儀

両儀両儀