2013.4.27~5.5 呉連枝老師講習会

2013年4月27日からから5月5日にかけて、都内の体育施設にて開門拳社主催の「第12回 呉連枝老師講習会」を行いました。今回は、老師のお孫さんの呉昊くんが初来日・初参加されました!

 

両儀

初日は、呉家秘伝の内功五法の講習から。八極拳の最も大事な基礎、馬歩両儀功を呉連枝老師から学びます。

参加者は、皆、熱心に呉老師の説明通りに両儀功を行います。
姿勢の修正や、ツボの位置の解説をしていただいています。

2013年呉連枝老師講習会レポート

八極拳を習い始めて約9ヶ月、この度、呉連枝老師の講習会に初めて参加致しました。いまだ小架一路を一人でできるかどうかというレベルであり、呉連枝老師の講習会に自分が参加するなど当初考えてもいませんでしたが、服部先生にお声を掛けていただき、内功五法と八極拳1日目、2日目の参加を決心しました。

内功五法当日、講習会会場まで遅れず辿り着くことができるのか、そんなことまで不安に感じながら何とか無事到着しました。そして定刻になり、とうとう呉連枝老師がいらっしゃいました。You Tube等で呉連枝老師のお姿は拝見していましたが、今までインターネット上で拝見していた呉連枝老師が目の前にいらっしゃることに感激しました。語弊があるかもしれませんが、呉連枝老師はインターネットで拝見していたお姿そのままという印象を受けました。

内功五法では、まず両儀頂肘の理論から始まり、その後呉連枝老師が一人一人の両儀頂肘を指導してくださいました。私は5分と立っていることができず、自分のあまりのできなさに呆れると同時に驚いてしまいました。その後、懸肢貫指功や呼吸法をご教示いただきました。懸肢貫指功は、指先を意識し手を開いたり握ったりするという極めてシンプルな動作です。身体の一部に意識を集中し呼吸と共に動かすことで、血の巡りがよくなるような気がしました。内功五法で教えていただいた動きは、普段家でできそうな静かな動作なので継続を心掛けたいです。ただ、この日に何より強く思ったのは、八極拳の基本となる両儀頂肘を1日5分でも練習するところから始めなければということでした。

八極拳1日目、2日目では、小架、六大開拳、単打、対打をご教示いただきました。私は、小架一路と単打の拉馬式までしか習っていなかったので、新しい動きも多く、なかなか体が動きませんでした。新しいものは予習だと思って参加すれば良いという服部先生のお言葉を思い出し、動けないこと自体はあまり気にしていなかったのですが、2日目の対打の相手をしていただいた方には、少々申し訳なく思っています。今後の練習あるのみです。八極拳1日目、2日目の講習会はそれぞれ40名くらい参加されていたのでしょうか、皆でいっせいに動く様子はかなり迫力があり、その雰囲気に内心圧倒されました。また、呉連枝老師のお孫さんの呉昊くんの表演は、力強くも華麗で、それを見るだけでも価値があると思いました。

私は最終日の講習会には参加できなかったのですが、2日目の練習終了時に、呉連枝老師に色紙を書いていただきました。家の中のすぐ目に入る場所に飾っています。色紙を飾るときに、両儀を1日5分やること、毎日少しだけでも勉強することを決意しました。ただ、やはり様々な誘惑に負けて毎日継続はできていませんが、呉連枝老師の美しい文字を見ると気が引き締まります。

また、初めて講習会に参加し、非常に熱心に練習している諸先輩を目の当たりにし、このままでは私はどれだけ通っても上達はないと反省しました。普段の練習にはそれなりに真面目に参加しているつもりでしたが、もっと一つ一つの動作を真剣に、その場で動きを覚えるくらいの心構えでやっていこうと思います。それと、講習会に参加して、他教室の同性の女性と知り合えたこともとても刺激になりました。

最後になりましたが、普段の大森教室の練習でも今回の講習会でも、服部先生や指導員の皆様にお気遣いをいただき感謝しています。この感謝の気持ちを八極拳の上達という形でお返しできるように努力していきます。

 

大森教室 竹田

両儀

今回、武器の部では、伝統の「六合刀」を学びます。

 
「六合刀」は、日本では初公開となる伝統套路です。
「提柳刀」よりも、長拳門の影響が強いようです。跳躍動作も入ります。
呉昊くんが、基本から丁寧に指導してくれます。  
  呉連枝老師を表敬訪問された松田隆智先生と。
刀の各部位の用い方を説明される呉連枝老師。  
用法対練  
 

 

両儀

2013年GW講習会に参加して

「八極拳をはじめてどのくらい?」「5ヶ月です」「頑張って、しっかり功夫を積みなさい」
畏れ多くも呉連枝老師に言葉をかけていただきました。60年以上続けてらっしゃる老師にとって3ヶ月も5ヶ月も変わらないと思いますが、実は後で、はじめてから4ヶ月弱だったと気づきました。
 呉老師が来日され講習会が開かれると聞いてすぐに、自分のレベルも省みず講習に参加しようと決めました。正直に告白しますと、その原動力は向上心20%、ミーハー精神80%でした。生で呉連師老師が見られる!もしかしたら、ちょっとご挨拶くらいできるかも!しかもお孫さんも来るらしい!…と、よこしまな心たっぷりで、初日の「内功五法」と後半3日間の「呉氏開門八極拳講習会」に参加させていただきました。
 4日間、八極拳の基本をじっくり学ぶことができました。老師も仰っていましたが、物事を習得するには、理論をもって実践することが大切で、理論だけでも、実践だけでも駄目だと思いますので、こうして理論を軸に、基本をじっくり教えていただけるのはありがたいことです。以下、講習会で超初心者なりに感じ、学んだことを書き連ねさせていただきます。

 『功夫とは時間。時間を積み上げるということ』
私は外国語を学ぶのが趣味なのですが、常々思っているのは「語学は努力を裏切らない」ということです。八極拳も同じなのだと思います。できるだけ質のいい努力を積み上げて行くこと、それが唯一の近道なのだと思います。

『気の流れを通してやる』
内功五法の時「人間大切なのは健康であること。強く健康であること」「そのためには、経絡を流れる気の流れを通してやればいい」というような老師の言葉を訳した後、小さく「逆に言うと、それを止めれば…。」と服部先生が意訳(?)なさっていて、確かに…とゾッとしていたら、老師が何度も「頭まで気を通すと、すごく効くけど、危険」と繰り返していて、良くも悪くも、これは確実に効くんだろうなと思いました。

『意到気到、気到血到、血到力到』
こういった言い回しは、多くを語らず、それゆえに真理を伝えられます。私の解釈は、これは精神論ではなく、人間の精密な体は精神と密接に繋がっていて、この繋がりを鍛えることで効果的に体を使うことができる、というものです。実際、ストレスで血の巡りが悪くなって力が出なくなったりすることがあると思います。だから、逆に正しい方法でこれを鍛えれば、最終的には心も体も健康になれるはずです。内功五法で習ったように右掌から吸って左掌に吐いてゆっくり呼吸しながら気を回そうと意識すると、手の先まで血が巡ってじわーっときます。また、講習会のいろんな場面で老師が「看不懂(見た目にはわからない)」と言っていましたが、老師には普通の人が見えないような微妙な力の動きや気の動きを感じられるのかもしれないなと思いました。

『両儀が大事』
とにかく八極拳は両儀にはじまり両儀におわるのだなと思いました。両儀の意味を内功五法でも、八極拳の講義でも、細かくじっくり教えていただいたからです。常々、教室で注意されていた沢山のポイントが、頭のなかで「ぐわーーっ」と纏まってひとつの形になったような気がしました。陰陽、○△、上下左右の力など、いろいろな例えや理論で説明がありましたが、私の頭の中では「両儀は宇宙だ!」というイメージでまとまりました。それにしても自分の両儀は不格好です。どうしても、どっしりした感じにならないのです。やっぱり老師の言われるように毎日40分立たなくてはいけないでしょうか。

『六大開がすべてに隠れている』
恥ずかしながら、講習会の一週間ほど前に、やっと小架一路をなぞれるようになったというレベルなもので、「六大開」どころか「六大開拳」もはっきり認識できていないため、老師が「六大開のそれぞれに陰陽があって…」と説明している間ずっと、6つの技があるのだな、と思っていたのですが、説明の途中で、技ではなくて力の出し方のことなのだ、と気づき、心の中で電球がピカーっと光りました。これを本質的に理解し、体現できるように功を練ることが八極拳を学ぶことなのだと思いました。

『明快な理論』
八極拳は理論がシンプルに整理されていて、本当に素晴らしいと思います。そういったものほど、極めるのには奥が深いとは思いますが。とはいえ、講習会では理解できない論理がたくさん出てきました。「六大開」も本当は全然理解できていません。今はまだ、套路の形をなぞるだけで精一杯です。功夫を高めて、六大開を気にしながら練習できるレベルになりたいです。

最終日に、一人ひとり、呉連枝老師に上歩拳を見ていただきました。もちろん、私は老師に見ていただくようなレベルではないので、勿体ない話ですが、これは非常に励みになりました。老師に直接、功夫を積むようにと声をかけていただいて、そのお人柄に直接触れられたのもありがたいことです。普段の教室でも、服部先生のお話から呉連枝老師のお人柄の素晴らしさは聞き及んでいましたが、本当に、人としての温かさがにじみ出ている感じがしました。もちろん、厳しい部分も垣間見えていましたし、「体の小さな人や女性の戦い方」についての質疑応答などでは、笑顔ですごいことを言われていましたが。八極拳とは直接関係ないですが、呉連枝老師のお話を中国語で理解できたらいいのに!と思いました。八極拳はもちろん、中国語も頑張ろうと思います。
さらに講習会とずれますが、内功五法の休憩時間に見せてくれた吳昊君の表演に、ジャニーズのアイドルに出会った気分でした。刀の套路も少し見せてくれて、ミーハー気分が高まり、俄然ファンになってしまいました。
また、呉連枝老師には、色紙にお言葉まで頂きました。中国では教科書に載っているという有名な梅の詩です。梅のように淑やかで強く優しくなれるように精進します。
最後になりますが、講習会中ずっと、最後の歓送迎会まで通訳を兼ねご指導くださった服部先生、本当にありがとうございました。また、私が訳も分からず右往左往しているところ、いろいろ教え、フォローしてくださった先輩たちにも、ご迷惑をおかけしました。未熟者ですが、今後ともよろしくお願いいたします。

 

2013年5月吉日 本部教室 山田明子

 

徒手講習会の初日です。

 
最初は、やはり最重要の馬歩両儀功から始まりました。
参加者一人一人の姿勢を、呉老師が手ずから直されます。
各歩型の注意点について、詳細に解説される呉老師。  
歩型と武器との相関関係についても解説されます。  
六大開理論についての講義。  
六大開理論を体現した、6+1の招式についても、詳細な解説を受け、全員で練習しました。

 

両儀両儀

2013年 呉連枝老師講習会参加レポート

 今年も開門拳社が主催する呉連枝老師の講習会がゴールデンウィークに開催されました。私は前半の内功五法、六合刀そして後半の徒手の講習会に参加致しました。
 今回はその内の徒手の講習会について感じたことをレポートさせて頂きます。

 初日は講義が中心で、両儀や開門の考え方、五種歩形、そして六大開などについてお話されました。これらのお話の中には初めて拝聴するものもありましたが、以前呉連枝老師が来日された際に聞いたことがある内容もありました。両儀に至っては呉連枝老師も「来日するたびに何度も説明するのは両儀が八極拳の中でとても大事だからです。」と改めておっしゃっていました。この時は「呉連枝老師はいつも両儀が大切だ、とおっしゃっているな。」という感想を持っただけでした。
 実技では、六大開拳を呉連枝老師から学びました。

 二日目も講義が中心で、主に単打を材料にした六大開や、呉連枝老師が用意された修練八極拳歌や用肘歌などのお話をされました。
 実技では、単打・対打を老師から学びました。
 単打のお話は跪膝が印象的でした。小架の拳譜にある”跪膝者南北二極也”の説明をされ、さらに向捶も跪膝である、ともおっしゃっていました。跪膝と向捶が外見上同じであることはなるほど理解出来ますが、”南北二極”という陰陽虚実の意味が含まれている跪膝と向捶が同じであると考えると、向捶という技も陰陽虚実を交えて打てるよう臨機応変に動けなければならない、とおっしゃっているように感じられました。なんとなくですが自分の中で向捶という技の幅が広がったような気がしました。
 この日の最後に説明された用肘歌は八極拳で重要な肘に関しての、八つの句から成っている短い歌です。呉連枝老師から用肘歌を説明して頂いたその時は「なるほど色々な肘の使い方があるな、さすが良く出来た歌訣だな」という感想でしたが、このレポートを書くために改めて何度もこの用肘歌を見ていると、これは単純な数種類の肘の用法説明ではなく、もっと広い意味で八極拳において肘がどのような意味を持っているかと言うことを伝えている歌なのでは、と思えてきました。降龍や伏虎など、肘という名称が入っていない技でも、肘がどんな役割をしているか良く考えて練習する必要がある、と改めて感じました。

 講習会最終日の三日目は呉連枝老師に講習会参加者全員の冲捶を見て頂き、直接指導を受けることも出来ました。行気が上手く出来ていない、力んでいるなど一人ずつ丁寧に見て頂きました。私は十年以上毎年この講習会に参加していますが、呉老師がこのようにはっきりと一人ずつ指導されているところを見たことが無かったため、内心とても驚いていました。
 私も呉老師の目の前で冲捶を4,5本打った後、”精気神”が足りない、そして”跺碾闖”が一致していない、などの注意を受けました。精気神については普段からそれほど気にかけていなかったため、自分の内面について良く考えて、気持ちを表に出して練習する必要があることがよく分かりました。跺碾闖については、碾の力がとりわけ足りないために力が外に逃げている、と言われました。しかし跺碾闖はいつも気をつけている点だったので、この指摘受けてどのように足りないのかわからず、始めは戸惑いました。ただ、良く考えて自分を見直してみると、やはり練習不足であることに気がつきます。ここ最近は劈掛を中心に練習していたこともあって、あまり八極本来の爆発力の練習は十分でなかったように思えてきました。そして初日に呉連枝老師がおっしゃっていた”両儀が八極拳の中でとても大事である”という言葉に改めて重みを感じました。

 今年は色々と自分に足りないところを教えられた講習会となりました。初心に戻って暫くは八極の力を養う基礎の練習に時間を費やしたいと思います。

 最後に講習会に参加された同門の皆様お疲れさまでした。来日してご教授下さった呉連枝老師、初来日され元気よく指導された呉昊君、そして講習会を開催し運営して下さった服部先生、本当にありがとうございました。

 

本部教練 山崎義之

両儀両儀

 

2日目は、単打・対打を中心に、講習が行われました。  
動作・発力・行気などについても呉老師からチェックを入れてもらいます。

2013年 呉連枝老師講習会レポート

  今年のゴールデンウィークも、呉連枝老師を招聘しての講習会に参加させて頂きました。今回はなんと、呉連枝老師のお孫さんである呉昊君が一緒に来日され、たいへん熱心にご指導くださいました。呉昊君は現在16才との事ですが、初めての海外渡航先に日本を選んで下さったのは、たいへん光栄な事だと思います。今年は4月27日の内功五法、4月28、29日の六合刀、5月3、4、5日の八極拳上達法の六日間に参加する事ができ、とても充実した連休を過ごさせて頂きました。

  初日は内功五法の講習会でしたが、今回もかなり多くの時間を両儀功の解説に費やして下さいました。
呉連枝老師は「内功法の第一の目的は養生で、第二の目的は技撃です」と仰いました。八極拳はとても激しい発力を伴いますので、練習者の健康を守り、怪我を防ぎ、寿命を伸ばすために、昔から様々な研究がなされて来たものと思われます。

 なかでも第一功の「両儀功」は、八極拳のあらゆる招式の原型であり、骨組みでもある両儀の完成度を上げるうえで、とても重要な役割を担っているようでした。今回非常に興味深かったのは、両儀功のときに、小周天功と同様に任脈・督脈についてのご説明があり、含胸抜背や沈肩墜肘、頭頂藍天や懐抱嬰児などの要求に添うことによって、様々な経絡がスムーズに繋がるようにする、というお話でした。両儀功の時は、非常にゆっくりとした自然呼吸だったと思いますが、この呼吸に合わせて、他の内功法と同じように様々な経絡の流れがあるとすれば面白いのですけれども、私の様に腰痛持ちだったり首に凝りがあったりすると、きっとその辺りで「途切れてる」んだろうなあと思ってしまいました。

また「真っ直ぐ立つ必要があるが、人体にとっての真っ直ぐは直線ではない」、というお話も非常に大切なことの様でした。全身の全ての部位が、大小様々な円で構成されているという事は、ある招式の定式の時に「開き切っている関節がない」ように思われますので、例えば伸び切った肘を折られたり、突いた自分の力で痛めたり、という事も起こりにくくなるはずです。ですが、全ての関節を同時一瞬にコントロールするのは、かなり難しいことだと思いますし、ましてその「両儀」が変形するともなれば、知識で知っているだけの事はあまり役に立たないでしょう。だから例えば「定式になったときに、関節が丸みを帯びている感覚」の方を覚え込む必要があるのではないかと思いました。その感触が保たれていれば、自分の力が自分のどこかの関節に集中して、ダメージが返ってくる様な事もなくなるのではないでしょうか。

 また様々な呼吸の訓練によって行気も大きくなり、攻撃力の増大だけではなく、自分の内臓を保護してくれるようになるそうです。これは恐らく站椿功だけでは実現できず、やはり怪我や病気から自分の体を守ってくれる技術だと思われます。
 そして懸肢貫指功では、呼吸とともに幾つかの経穴を気が巡ってゆく様子をイメージしますが、吸うときと吐くときで、腕の外側面のツボを通ったり、内側面のツボを通ったりします。このあたりは、站椿功が定式の形を整えるのに対して、定式に至るまでの力の通り道に関係しているのかも知れません。

 その他の要求についても、それぞれ理由があるように思われますが、とても難しい内容を含んでいるようで、理解が遠く及ばないのは例年の通りでした。恐らく、外側の形は站椿とあまり変わらなくても、同時に意識を訓練するための方法が伝わっており、その目的の中には、一発打つぞというときの、内側の心の状態を作り出す練習まで含まれているのではないかと想像しています。
 呉連枝老師をはじめとして、八極拳の達人といわれる方々は、とても強い心をお持ちです。いざという時でも、条件反射のように「戦える精神状態」を作り出すことができるように見えますが、修練の量に裏打ちされた自信の他に、内功のような練習が関係しているのかも知れないと思いました。

  続く2日間は刀の講習会で、呉昊老師に「六合刀」をご指導頂きました。
 六合刀は八極拳に古くから伝わる刀の套路で、長拳の刀に近い技術が含まれているそうです。私は六合刀という套路の存在自体を知らなかったのですが、八極拳の六合刀はさらに三つに分かれていて、それぞれを「六合刀」、「提柳刀」、「四門刀」と呼ぶそうです。そして呉連枝老師は六合刀の事を「花刀」つまり華美な刀であると仰いました。「提柳刀」が実用を旨としているのに対して、六合刀の華美な動作は身法を養い、刀の操作の基本を学ぶことができるそうで、今まであまり外部に公開した事はないということです。

 小架の歌訣のなかに書かれていたり、呉家の嫡男であられる呉昊君が現在、提柳刀より六合刀をたくさん練習しているということからも、その重要性がうかがい知れますが、今回驚いたことは他にもありまして、それは「提柳刀」の方はもともと套路ではなく幾つかの単式であったということと、とても重要そうな武器の套路が「更にふたつ」も出てきてしまったことです。
 私が見たことのある武器の套路は、まだそんなに多くないとは思うのですが、この様子ですと「いったい全体ではあと幾つの套路が存在するのだろう」と恐い事を考えずにはいられません。武器に限らず、まだ見たこともない套路や招式がたくさん存在することは間違いなく、あらためて八極拳という体系の巨大さを感じました。

 また「提柳刀」は、呉連枝老師のご父君である呉秀峰公が、単招式の集合体であったものを套路へと編纂され、套路として練習するようになったのはその時期以降の事だそうです。今回、提柳刀の元々の単式動作を呉連枝老師にご指導頂きましたが、単式の重要な用法が含まれている限り、套路の順序はそれほど厳密なものではないとの事でした。門内に伝わっている提柳刀の套路に、それぞれ細かな違いがある理由も理解できましたが、今後はもっと単式の練習量を重視する必要がありそうです。

 六合刀はもの凄く長い套路ではありませんでしたが、長拳の技法が含まれているせいか、旋風脚や二起脚といった「個人的にゼッタイ無理」な部分が何ヶ所かあり、せっかくご指導頂いた呉昊老師には申し訳なかったのですが、旋風脚は裡合腿で、二起脚は拍脚にて勘弁して頂きました。残念ながらこれらは、練習しても飛べるようになる気がしませんです。自分の努力不足を歳のせいにしてはいけませんが、套路全体の雰囲気も「若い頃から練習する」カリキュラムのように感じられます。

 しかしながら、例に漏れずいつも感動してしまうのは、八極拳がいかに入門者の上達に配慮した練習体系を持っているか、という点です。もちろん私は他派の練習法について、何か言及できるほど見聞きしている訳ではありませんが、傍目に見て「入門者に特殊な才能を求める武術」というのも、少なからずあるように思います。表現が難しいのですが、呉氏開門八極拳は「ひとりでも多くの人を、すこしでも上達側に引っ張り上げてくれる」練習体系を持っていると思います。

 新しい套路をご教授頂くといつも思うのですが、まずは一人で練習できるようになるまでが最初の難関で、とにかく順序だけでも頭の中に残ったところが練習のスタートラインになります。当然中身はひどいもので、どの套路も練習の効果が出始めるまでには、長い時間がかかります。私は入門後はじめての武器は「提柳刀」の新套路を教えて頂いたのですが、基本功、特に小提柳のあまりの動けなさに閉口して、套路そのものまで忘れてしまった苦い思い出があります。

 今回も基本功の中に難しいものがありましたので、おなじ轍を踏まないよう気を付けなければなりません。基本功ができていないために套路全体がドヘタクソで、ヘタクソだから練習したくなくなって、では前に進みませんから、当面中身が滅茶苦茶でも仕方がないと割り切る必要があります。今回ご指導頂いた六合刀は、まだ順序を覚えたばかりの段階ですが、足の動かし方が難しく、すでに一部曖昧になりかけている部分がありますので、教室の皆さんと補完し合いながら、提柳刀と一緒に練習を続けていきたいと思います。

  5月3日からの3日間は徒手の講習会でした。
 立ち方などの基本功から始まり、単招式、六大開拳、小架や単打・対打などを通じた八極拳の上達法がテーマです。また習練呉氏開門八極拳歌や用肘歌、用腿歌などを題材に、練習や実戦での運用の要領について、丁寧に解説して頂きました。
 呉連枝老師は、あれこれ理屈を考えて練習しないことを「口八極」と呼び、良くないことですが、練習はするが何も考えていないというのも、また上達を妨げると仰いました。今回の講習は「練習をするときに考えておくべき事」について、かなり掘り下げた内容です。

 まず呉家三拳について以前から気になっていたのですが、冲拳と撑掌は見た目の形がとても良く似ています。八極拳の招式は基本的に両儀の変化であり、冲拳、撑掌、向捶ともに両儀の変化である事に変わりはないそうですが、八極拳の招式の中には他にも実に様々な形があり、重要な三つを挙げるとして、その中の二つが非常によく似ている形に見えるのは、とても興味深いことだと思います。これには二つの可能性が考えられると思いました。

 一つには、冲拳と撑掌には、見た目以上にとても重要な相違点があるという可能性です。特に、呉秀峰公は「撑掌が完成すれば、八極拳が完成したことになる」と仰っていたそうですが、なぜ冲拳ではなく撑掌なのか、という事についてです。
 そしてもう一つは練習量のバランスに関するもので、跟提歩の発力練習量1に対して、闖歩の発力練習量2が、必要である可能性です。前者は半歩のまま使えるが比較的発力が小さく、後者は基本的に上歩する前提だが発力が大きい、招式を代表している可能性があります。これはどちらも的外れかも知れませんが、どちらかというと「口八極」な私は、練習の中から答えを探すべきなのでしょう。

 また六大開の陰陽について、今回の講習でも詳しく解説して頂きましたが、ここはとても難しい部分だと思います。
 呉連枝老師は以前の講習会で「小架の全ての定式は両儀の変化ですが、定式と定式の間は両儀ではなく六大開です」と仰っていました。無形純陽式と無形純陰式は、この定式の一瞬を表しており、定式の両儀には攻撃と防御どちらの要素も含まれているそうですが、それが主に防御の作用を表したときが無形純陰、攻撃の作用を表した時が無形純陽、ということなのかなあと思いました。

 そして啓動は六大開とは別のもので、このときに力を入れてはいけない、との事ですので、啓動から六大開までが過程で、この間は放鬆、発力・行気して成招する一瞬が無形純陽・無形純陰で、これが結果を表しているようにみえます。定式は両儀の変化で、攻撃の中に防御の要素も含まれており、防御の中に攻撃の要素も含まれているという部分が、太極図の老陽の部分に描かれた小さい陰の点であり、老陰の部分に描かれた小さい陽の点なのかも知れません。
 また成招して定式になるのに、無形と呼ぶのもちょっと不思議な感じがします。もしかすると最終的には招式の種類はすべて消えてしまって、攻撃の作用が主体の場合は純陽(+小さい陰)、防御の作用が主体の場合は純陰(+小さい陽)、の二種類しか残らないのかも知れないと思いました。そう感じた理由が、今回老師に質問してみた「回身での投げ」についてです。

 以前服部先生が、渡邉先生主催の講習会にて、呉連枝老師が向捶か降龍かの回身動作で人を投げるのをご覧になった、というお話をして下さいました。それ以来、その動きをひと目見てみたいと思っていましたのでお聞きしてみたところ、「回身動作で人を投げるとすればそれは『摘身換影』でしょう。代表的な動作はこの様にしますが、その当時は、たまたまそういう状況になったから自然に投げたのだと思います。だから細かい動作は私も覚えていません。これを無形といいます。」と仰いました。
 当時私はこれを、向捶なり降龍なりの「招式」の奥深さとして認識していたのですが、実際にはその向こうにある「無形」に関するお話であった事を知り、少しショックを受けています。つまり呉連枝老師は恐らく「その様なシチュエーションになれば」、回身動作ばかりでなく、その他様々な招式を用いて人を投げてしまうであろう事、そして「その事を意識しておられない」であろう事がわかってしまったからです。この境地への道のりの遠さは、想像を絶するものがあります。

 また今回の講習会では、私達全員の冲拳を、一人ずつ呉連枝老師に見て頂いて、直すべきところをご指導頂く機会がありました。
 服部先生のお話では、普段の呉連枝老師は、たとえ学生相手であってもその人の面子に配慮して、他の人の前で「ここが良くない」というお話をされる事はまずない、という事でした。今回は服部先生から無理にお願いして、通常であれば絶対あり得ないような機会を作って頂きました。これは間違いなく、私達一人ひとりにとって「世界で一番上達への近い道」を教えて頂いた事になります。
 今回ご指摘頂いた内容は幾つかあるのですが、垛歩・碾歩・闖歩のバランスが偏っていて力が漏れている、なかでも習練八極拳歌の中にある「足は地面に釘を打つ」という部分が、特に私に欠けている部分であると思いました。せっかくの機会を頂戴しましたので、今後の練習にぜひ活かしてゆきたいものです。

  講習会全体を通じて、呉昊君については、今回とても素晴らしいことを沢山知る機会がありました。
 呉氏開門八極拳の王子様は、人を惹き付けるとにかく魅力的な人柄で、これはもう血筋と教育の賜物としか思えません。服部先生も仰っていましたが、こんなに性格の良い子が果たして現代にどれだけいるだろうか、と思うほどです。あまり表に出さないですが、八極拳に対する取り組み方はとても真摯で、呉連枝老師はお孫さんである昊君をとても可愛がってはおられますが、こと八極拳に関しては一切甘やかす事がない、という事もよく解りました。

 実は呉昊君は今回、来日前から怪我をされていて、六合刀の講習会ではかなり厳しい状態をおしてご教授下さった事がわかりました。心から感謝申し上げますとともに、一日も早い怪我からの回復をお祈り致します。
 そして呉連枝老師も、昊君のお父様お母様も、そのような状態にもかかわらず、練功を一日も休ませていないのだというお話を伺って、衝撃を受けました。服部先生もだいぶ心配しておられましたが、呉連枝老師の若い頃には、夜激痛で寝る事ができないくらい酷い状態でも練功を休む事がなかった、だから昊君の怪我についても、そんなに心配する事はない、と普通に仰っていたそうです。

 服部先生は「呉連枝老師のお孫さんがみえるということは、若い頃の呉連枝老師を見られるのと同じだと言われたんですよ」と仰っていたのですが、はからずもその意味が良くわかりました。私達は普段、練習をサボる理由だけは幾らでも思い付きますし、怪我をしたという事であれば、当然の様に体を休めるべきだと考えます。もちろん怪我の程度にもよるのでしょうが、根本的な考え方がすでにして全く違うのだと思い至りました。
 そうして彼は日々の厳しい練功に耐え、それでいて呉連枝老師の事が大好きでとても尊敬している事、そして、いつもさり気なく老師を気遣う優しさを見る事ができました。それが文字通り、彼が呉連枝老師の「宝物」である事を物語っていたように思います。

  今回の講習会におきまして、呉連枝老師、呉昊老師には六日間にわたり大変熱心にご指導頂き、感謝の言葉もございません。また期間中、高度な座学を含む困難な通訳を続けられ、なにより私達一般の学生にまで今回のような機会を与えて下さった服部先生に、心から感謝申し上げます。そして今回の講習会でも、関西からお見え頂いた渡邉先生、周佐先生、石田先生には大変お世話になりました。またいつもご迷惑をおかけしている指導員の皆様、同門の皆様、今後ともよろしくお願い致します。ありがとうございました。

 

土曜本部教室 高須俊郎

両儀両儀

渡邉先生・服部代表が相手役となって、呉老師から対打の正しい練習方法について学びます。
大纏などの変化についても学びます。  
屋外で雑誌掲載用の写真を撮影します。  
呉連枝老師と呉昊くんによる対打。 呉昊くんを囲んで、師父と日本の入室弟子たち。

★今回は、特別企画として、参加者一人ずつ、呉連枝老師に八極拳の最重要基本功の一つである「上歩拳」を観ていただき、アドバイスをいただきました。
参加者一人ずつの個性に合わせて、呉老師が適確なアドバイスをされます。
人はそれぞれ、注意点もそれぞれ。  
呉連枝老師の上歩拳は、爆弾が炸裂するかのようです。  

後半は、足の使い方について、詳説されました。  
東日本大震災で被災された支部の会員のかたへ、励ましの色紙を書かれる呉連枝老師。 山形支部長を囲んで。


おわりに:今回は、 呉連枝老師だけでなく、内孫で八極門九世の呉昊くんが来日され、指導を手伝ってくださいました。

今回も実り多い講習会になったと思います。呉連枝老師、呉昊くん、また、ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。

開門拳社代表 服部哲也

次のページは歓送会とおまけ写真です