2014年 ゴールデンウィーク講習会レポート
今年のゴールデンウィークも、八極拳講習会に参加することができました。今年は呉連枝老師ご来日の都合がつかなかったため、服部先生が代講され、4月26・27日の九宮純陽剣、同29日の基本功、そして5月3・4・5日の四朗寛講習会、計6日間に参加させていただきました。今回のテーマである九宮純陽剣や四朗寛は、とても好きな套路ではあるのですが、どちらも長いうえに大変難しいため、うまく動けないところを少しずつでも改善したいと目標を立てて臨みました。
最初の二日間は九宮純陽剣の講習会でしたが、以前呉連枝老師にご指導頂いた際、たった半日の講習であったにも関らず、かなり疲労困憊した記憶が生々しく残っており、体力的には厳しい内容になることを覚悟して参加しました。もともとは劈掛の武器ということもあって、激しい発力はあまりないのですが、歩法が低くて大きいばかりでなく、仆歩から独立歩といった上下の起伏が非常に激しいため、傍目には大変優雅なように見えますが、套路の一部を抜き出して繰り返し練習していると、体の特定部分に負荷が集中して大変なことになります。
套路全体を通して練習すれば、確かにそれはそれで疲れるのですが、全身が満遍なく重だるくなるような感覚になりますので、もしかすると套路の流れ自体も、体の各部にかかる負荷が上手に移り変わってゆくような構成になっているのかも知れません。それでも二日目には、上半身はともかく下盤から腰にかけての疲れがまったく癒えず、ああやっぱりこうなったか、と思いました。主に普段の練習不足のせいなのですが。
今回の講習会では、呉連枝老師の書いて下さった拳譜の写しを資料としていただきました。今回はじめて套路の順序を学ぶ方も数名おられた様に思いますが、講習会の初日で套路全体の3分の2程度まで進んでいます。これは私達が学び始めた頃を考えますとかなりのハイペースですが、九宮純陽剣の拳譜には套路のほぼ全ての動作が一対一で記述されていますので、拳譜と教わった動作の対応さえ付けられれば、ひとりで練習をする時にたいへん大きな助けになると思われます。
それを差し引いても、今回初参加の人達の吸収はとても速く、驚くばかりでした。自分が習い始めた頃を思い起こすと、今回初参加の方々は、教わっている内容を理解する能力がとても高いように感じます。今回の講習会にあわせて、初めて長穂剣を準備した方も結構いらした様なのですが、皆さん勧められてというより、ご自分から純陽剣に挑戦してみたい、という空気が強く感じられました。
ひとえにこの套路がとても美しかったからではないかと想像するのですが、私自身も服部先生の純陽剣に憧れて套路の練習を始めた頃に、長穂がとにかく難物で、なぜこんなものが付いているのだろうと真面目に悩んだ記憶があります。これさえ付いていなければ、もう少しなんとかなりそうなのにと思ったりもしましたが、実はそれは勘違いで、長穂があるからこそ剣の扱い方を早く学ぶ事ができるようなのです。このあたりの流れも、皆さんまったく同じように見えましたので、なんだか嬉しくなってしまいました。
長穂は踏んだり絡まったりしますが、徐々に扱いに慣れてくると、長穂を操作すること自体が楽しみに変わってゆきます。服部先生も仰っていましたが、長穂が正しく動いていれば、剣も概ね正しく動かせているそうで、ひとりで練習している時は長穂が先生の代わりであるとのことです。はじめは長穂が絡まない様にする事だけで頭が一杯なのですが、なんとか捌こうとしているうちに、ひとりでに剣自体の動きも矯正されている事になります。正しい動作をひとりでも検証できる様な道具は、他には例えば六合花槍の槍櫻くらいしか思い付きません。これを最初に考え付いたのは、いったいどんな人だったのだろうと思うと同時に、徒手にも同じような道具があればいいのになあ、と思ってしまいました。もしかすると両儀がそれにあたるのかも知れませんが、すくなくとも私はまだ自分の動作を検証できる水準にありません。
呉連枝老師が仰るには、九宮純陽剣は練習を続けていかないと脱落率の高い套路であるとの事ですが、同じ教室にも純陽剣が大好きになってずっと練習を続けている人がいますし、今回自分からチャレンジしてみたいと思って始めた人達からも、純陽剣の人口が増えてゆくと嬉しいなあと思いました。相変わらず上手には動けないですが、出来不出来にかかわらず、九宮純陽剣は本当に楽しい套路だと思います。
続く4月29日は、基本功の講習会です。この日は関西の渡邉先生の団体から、ジュニアクラスの子供さん達も参加され、すばらしい練習の成果と無尽蔵の体力を披露してくれました。私達おじさんは休憩時間になると座り込み、座り込んだらなかなか立ち上がれず、情けない限りではありましたが、やはり基本功の練習は例年通り、キツい分以上に必ず得るところがあります。
長拳基本功や腿法、五歩拳や弾腿など、久しく練習していなかったメニューは足腰に堪えましたが、弾腿などは実際に戦ってもすごく強かった、というお話を伺いますと、これは準備体操の様なものではなかったんだと思いました。五歩拳も久しぶりに練習してみますと「あれ、こんなに難しかったっけ?」と思うことしきりで、いま真面目に練習するとまた大きな利点があるのではないかと感じました。これらの基本功に限らず、いつの間にかやらなくなってしまった練習法が、まだたくさんあったような気がしています。
このあと八極拳の練習に移り、立ち方から、歩法と開門八式、小架一路、六肘頭とご指導いただきましたが、今回あらためて考えさせられたのがミット打ちの練習についてでした。今まで上歩拳や上歩掌で実際にものを打つときに、間合いを細かく調整していたのですが、その理由をよく考えてみますと、「遠過ぎると肘が伸び切ってしまって危険」だと思ったり、「近過ぎると自分の手首にダメージが返ってくる」と思っていたのが原因でした。前者はその通りだと思われますが、後者は間違いだったのかも知れません。
手首にダメージがあるとすれば恐らく、相手と間合いが近い場合でも、空打ちのときと全く同じ形を取りに行っているのが原因で、同じ形で終わるところまで、腕に力が入りっぱなしになっていると思われます。今回先生に頂いた「八極拳小架一路歌訣」には、「肋下暗走流星錘」とありますが、流星錘は紐の先に錘を付けた武器なので、遠くに当たろうが近くに当たろうが、そのとき紐は弛んでいるはずですし、相手に与えるダメージの大きさも変わらないはずです。たぶん間合いについては、「肘が伸び切るよりも近い間合いでさえあれば、どの距離で当てても同じ威力になる」のが正解なのではないでしょうか。
フルスイングで打ち切ったときだけ最大の威力になるのではなく、どこか途中で当たってしまっても、途中までしか腕が伸びなくても同じ威力になるためには、なるべく重心に近い位置から打ち出して、打ち出すときは腕には力を入れない、そしてどんな距離でも相手に触れた瞬間に張る、という感じになるでしょうか。以前からご指導頂いていた通りなのですが、物を打とうとしただけで全部頭から消えてしまっていました。抱虎帰山のように、「ものすごく近い」距離から力を出す方法も、同じような考え方なのかもしれませんが、実際に行うのは本当に難しいと思います。
5月3日からの3日間は、四朗寛の講習会です。初日は基本功として、歩法や開門八式、小架一路や単打からご指導いただきましたが、ここから三日連続で四朗寛の練習が始まると思い、無意識のうちに体力の配分をしようとしたのか、単打が発力不足となっていました。四朗寛は、単打のような縦の鋭い発力は少ない套路なので、その特徴を理解するために、単打は単打らしく練習する必要がある、とのご説明がありました。
初日からペース配分など賢しいことをしていたにもかかわらず、やはり日いちにちと体力は削られたまま回復に至らず、最終日に至ってはヒットポイント半分位のところから始まるような有様でした。今回の講習会では服部先生より、四朗寛の動作一覧と拳譜とを、学習の資料として頂戴しました。純陽剣の拳譜もそうなのですが、今回頂いた資料は、初めて套路を学習する方々にとっても素晴らしいものだと思います。
一人で練習するときに套路の順序を再現するための助けになるばかりでなく、体を動かす際のコツや、他の套路と招式名称を比べる事によって、その共通性を学ぶための情報まで含まれています。また、呉連枝老師の筆による書面そのものがたいへん美しく、そのまま額に入れて飾っておきたくなります。服部先生は、欧州の学生さんは漢字そのものを理解するところから始めなければならないので、私たち日本人は大変恵まれていますと仰っていました。
また呉連枝老師は日本語の漢字に近い繁体字を書いてくださるので、本当に有難い事だと思いました。
四朗寛そのものは、取り敢えず順序までは再現できる程度で、中身についてはなかなか理解が及ばないのですが、八極拳について何かとても重要なことを説明している套路なのではないかと感じています。例えば三歩半に代表される、「今まで説明しなかったけれど、本当はいつでもこうしなければいけない」という様な概念を学べるようになっていて、それ以前に学んだ他の全ての套路にも、多大な影響を与える仕組みになっています。
また小架や単打と比較して、あくまで個人的な印象ですが、招式の見た目と、実際に行っている事との隔たりが大きいように感じます。どの招式が何を意図しているのか、一目見ただけでは理解しにくいのです。単打では相手が何をして来ても、その上から全力で塗り潰してしまうような迫力を感じますが、四朗寛は相手の行動に合わせることが前提で、様々な状況に応じて対処法を示されているような印象を受けます。その分套路を練習していても、実際に使おうとした場合には、際立ってハードルが高いように感じられます。
見た目は優雅な套路ですが、用法を見せていただいたり、招式の意味を教えていただくと、かなりエグい内容も多く含まれていました。四朗寛では一見、強烈な打撃が見えにくいようですが、相手との攻防の合間で、割とダメージの大きいことをサラッとやってのける感じです。見た目の優雅さと想定している内容の残忍さ、また見た目の優雅さと要求される身法のツラさとのギャップが、テーマとして今回の九宮純陽剣と四朗寛の双方に共通していると思いました。
そして八極拳に対して、入門する前に勝手に持っていた印象とは、最もかけ離れている部分でもありました。一打の威力を重視した剛健な性質と、相手に応じて柔軟に変化する部分とが、わかりやすく組み合わさっているように見えます。これらの一部分が長いあいだ門外に出なかったにもかかわらず、今では私たち一般の学生にまで学習の機会が与えられていることには、心から感謝しています。以前は、起式や収式が異なっていたという理由についても、「もともと他人に見せる套路ではなかったから」とお聞きして、「起式は八極門の自己紹介でもある」というお話を思い出しました。
最終日の後半には、四朗寛の第二路である四朗提の講習も行われましたが、こちらは更に理解が及ばない状態で、中身について云々考えるのも、ずっと先の事だと思いました。服部先生のお話では、四朗寛には主に秘訣だけを記述した短い拳譜がありますが、四朗提には拳譜そのものが存在していないとの事でした。かつては指導者が直接、人から人へ伝えたものであったためのようです。四朗提につきましては、とりあえず一人で練習できるところまでは辿り着きましたので、この先の練習の中から少しずつ気長に理解を深めてゆければいいなあ、と思っています。
今回の講習会におきましても、服部先生には6日間にわたり大変丁寧にご指導いただき、誠にありがとうございました。また関西からお見え頂きました渡邊先生、石田先生ならびに同門の皆様にも大変お世話になりました。改めて御礼申し上げます。そして普段の練習からご面倒をおかけしている指導員の皆様、一緒に学習している皆様、今後ともよろしくお願い致します。ありがとうございました。
土曜本部教室 高須俊郎
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