2011年 夏合宿参加レポート
去る8月13日から15日の三日間、今年も夏合宿に参加させて頂きました。
今回は二十四式太極拳と、下盤を強化するためのスペシャルメニューをご指導頂けるとの事でしたので、期待半分、恐怖半分で野辺山に向かう事になりました。
練習場に集合して間もなく服部先生から、「それではまず、かる〜く千本ほど上歩拳を、打ってみましょうか」とのお達しがあり、内心冗談であってほしいと願いながら、ひきつった笑顔を浮かべているうちに、体育館の端に全員が整列して、かる~いノリのまま本当に始まってしまいました。
実は今回の合宿で太極拳をご指導頂ける事になったのは、私など特にそうなのですが、下半身が弱い割に上半身に力が入り過ぎていて、正しく力が出せなかったり、体に変な負担がかかったり、といった問題を少しでも改善するためだそうです。
二十四式太極拳を経験する前と後とで違いを確認する、あるいは事前に余計な力を出せない様にするためとあれば、逃げてしまう訳にもいかず、途中で両足ともマメが出来て、自分でも何をやっているのか意味不明になりながら、何とか通り抜けました。
肝心の結果はといいますと、二十四式太極拳は、套路の順序を覚えられたかどうかが精一杯で、考えてみれば当り前なのかもしれませんが、成果が云々というのは、これはかなり気の長い話ではないかと感じています。
始めたばかりの他派の套路について、何か分かるはずもほとんどありませんので、以下は、初学者の感想と憶測を書かせて頂きます。
太極拳を八極拳と比べてみますと、すごく似ている部分と、そうでもない部分とが両方あって、特に考え方の違いと思われる部分がとても新鮮に感じられました。
まず歩法についてですが、太極拳では完全に片足に体重を乗せ終わってから、次の動作に移るという部分が、とても面白かったです。前足を明確に踵から着地するのも、力の出し方の違いに関係しているのでしょうか。
また、片足に完全に体重を乗せられる様にするため、八極拳よりも通常の歩幅は少し狭い様です。八極拳は両足にそれぞれ体重を分配して、踏み分ける力も使って安定を確保していると思われるため、歩幅は概ね三足半ですが、太極拳では両足の体重の配分は 10対0 から 0対10 まで移動し、しかもその両端で静止していませんでした。
八極拳の三足半というのは、体重を両足に踏み分けて、静止しても次に動きにくくならない範囲で、最大の歩幅なのかも知れないと思いました。
上半身がすごく似ているのに、下半身が異なっている様に感じられるのが「張り」の部分です。
弓歩の足の三角形も、最後まで張ってしまわずに、全部の関節が少しずつ垂れ下った状態のまま、次の動作に移っている様です。なので、八極拳の様に後ろ足を完全に張って、体軸を後ろ足に対して一直線にするのではなく、後ろ足の膝は少し緩んだまま、背筋も鉛直に立ったままの様でした。
八極拳の場合は下半身から上半身に向けて、グラデーションの様に力が抜けてゆく、と伺っていましたが、太極拳ではかなり下の方まで、力が抜けていなければならないのだろうなあ、と思いました。どちらも今のところ無理なのですが。
また八極拳では、招式の一番最後の一瞬に発力を収れんさせる動作が多いように感じますが、太極拳では、長い距離をかけてゆっくり体重移動をさせて、その間徐々に力が発生しているように見えます。
でも八極拳の套路の中にも、今まであまり気にした事がなかっただけで、同じ様な力の出し方をしている部分が恐らくあって、そのどれも自分が苦手としている箇所ではないかと思いました。推山、擁肘、雲抄手、おそらく順歩単提や通背式などでも、最後の一瞬に張るだけではなく、一定の距離にわたって徐々に力が発生している面があるのではないでしょうか。
今までに、この違いをあまり考えた事はなかったのですが、仮に意識して使い分ける必要があるとすると、力の質の違いが見た目では緩急となって表れ、相手からみると、とても対応しにくい事になるのではないかと思います。
最後の一瞬に発力を集中させるような八極拳の招式でも、上歩掌などでは一瞬の間に様々な要素が隠れてしまっていて、例えば掌を煽り上げる動きなどは、外から見ていても殆ど「何をどうすれば正解に近付けるのか見当もつかない」状態でした。
しかし、太極拳での掌を見せて頂いたり、自分でも練習してみたりすると、仕組みを考えたり微調整したり、といった事ができ易くなるのではないかと想像しています。
ゆっくり動いてもできない事を、速く練習するだけでは改善できないのかも知れません。
そして一通りなぞってみて感じたことは、とにかく一言でいって「センスないなあ」と。
劈掛拳も全く同じ状況なのですが、だからといって逃げ回ってばかりいると、欠点がどんどん悪化してゆく事だけは間違いないので、非常に悩ましいです。
向いていないものは上達はできないかも知れませんが、無理矢理でも続けていれば、せめて欠点だけでも目立たなくなってゆくと期待したいところです。
八極拳の他に練習したことのある中国武術は劈掛拳だけですが、劈掛拳の場合は、あまり八極拳から離れずに練習する方法が用意されている様に感じます。
八極に劈掛が沁み込む、という言い方をされるそうなので、最終的には吸収されてゆく感じなのかなあと想像していました。
太極拳は、始めたばかりなので殆ど何も解らないのですが、八極拳との共通点、全く異なるところを、それぞれ意識しながら練習できれば、とても楽しいだろうなと思います。
最終的に八極拳と一体にならない(と思われる)ものを経験する事で、八極拳を周辺から眺めるみたいに、もう少しだけ理解が深まるのであれば、こんなに嬉しい事はありません。今まで絶対の原則だと思っていた事が、劈掛拳ではその限りでもなかったりしましたので、恐らく太極拳でも、劈掛拳とはまた違った部分で、思い込みに気付かされる事を期待してしまいます。
いろんな思い込みを全部取り外していったら、最後に残るのが「放鬆」だけだったりすると、一番最初の悩みに戻って来てしまうだけの様な気もしますが。
最後になりましたが、今回の合宿でも三日間にわたって、とても熱心にご指導下さいました服部先生、そして指導員の皆様、参加者の皆様には大変お世話になりました。改めてお礼を申し上げます。
土曜教室 高須俊郎 |