2010.5 呉連枝老師講習会(3)

10GW講習会

両儀

対打の講習。  
劈掛拳について、詳細に教授される呉連枝老師。 対打・扶手の実戦変化について教授される老師。
  来賓の方々と。

 

呉連枝老師講習会参加レポート

 今年のゴールデンウィークも、呉連枝老師をお招きしての講習会に参加させて頂きました。
 今回は4月25日、29日の八極槍、5月1日の九宮純陽剣、2日から4日の単打・対打講習会の計6日間、すべての講習に参加する事ができました。
 いつも変わらない呉連枝老師の優しい笑顔に、つい忘れがちになりますが、毎年とても貴重な機会に参加させて頂いている事に、感謝しなければなりません。

 最初の二日間は、槍の講習会でした。
 まず始めに槍の基本功について御指導頂いたのですが、基本功がどんどん難しくなってゆくのは、もはやお約束と言っても良さそうです。私は最近、ようやく打花子が楽しくなって来たのですが、足の運び方が少し気になっていました。
 老師の打花子は、啓歩から上歩した後に跟歩されている様に見えましたので、ここにも三歩半が…と思ってしまいました。普段私は跟歩できない事が多かったので、今後はなるべく跟歩も入れる様に、また提柳のときには、普段から苦手な白馬翻蹄を取り入れて練習できるよう、心掛けたいと思います。

 上歩しながららん なー ちゃーを行う際にも、歩法は二通りあるという事でしたので、苦手な方の歩法も套路に取り入れなければと思います。どちらにしても、今は発力云々より、足先から槍先までの動きがバラバラにならない事を、当面の目標と考えた方が良さそうです。

 続いて六合花槍を御指導頂きましたが、あらためて自分の套路を振り返りますと、どうも啓歩を半分以上落としてしまっている感じです。感覚的には、徒手の套路よりも啓歩が大きく見えますが、気を付けているつもりで、全く気が回っていなかった事がわかりました。

 また胯馬槍、回馬槍、纏絲槍と、歩法と槍の動きを合わせるのが「とっても」難しい部分が目白押しで、特に胯馬槍の部分は、半歩・上歩の繰り返しが四朗寛の三歩半と似ている様に感じました。
 纏絲槍に至っては…難しすぎて本当は避けたいところだったのですが、今回の花槍で呉連枝老師が採用された訳ですから、今後はなるべく纏絲槍で練習したいと思っております。

 今回印象に残ったのが、九宮純陽剣の七星歩の様に、一行程が七歩で出来ている部分が多いという事です。啓歩から始まって七歩、を心掛けていれば、だんだんリズムの様なものが出てくる、といいなあ、と思っています。
 続く六合大槍は、実は今迄ちゃんと練習できておらず、というより四路あたりでフリーズに陥る状態(動けないのです、単純に)でしたので、今は取り敢えず一人で通せるところまでを目標としています。

 続く5月1日は九宮純陽剣の講習会でした。
今回の日程では午後半日のみ、という事でしたので「これは順序をおさらいしている時間はないな」と思っていたのですが、いざ講習が始まってみますと、相当細かい部分まで時間をかけて修正して頂けたと思います。
 一番最初の起式から、それまで考えていたものと全然違っていて、特に剣を持っていない方の手の重要性が増していた様に思います。順序をトレースするだけでも大変なのに、やはり手を出すのが早過ぎた感は否めません。

 先生がいらっしゃらない時は、長穂が先生であるとのお話がありましたが、練習している時、少しでも他の事を考えると、見透かしたかの様に絡まりますし、定式の時に足の裏が地面にしっかり密着していないと、すぐに入り込んで来て、踏ん付けてしまいます。習うのは早過ぎたかも知れませんが、家庭教師がいると思って頑張ってみる事にします。

 呉連枝老師は、表演していて楽しく、見ていて楽しくなければ良い剣ではない、と仰っていましたが、表演して楽しい、は当分厳しい感じです。ですが呉連枝老師が表演されると、剣が龍に見えたり鳥に変わったりと、剣や長穂を腕ではなく身法で操っているのでしょうか、見ていて楽しいを遥かに越えるものでした。
 こうして諦めきれなくなるんですね。

 そして最後の三日間は、単打・対打の講習会です。
 初日は立ち方、単招式、小架一路から御指導頂きましたが、回を重ねる度に発見が増えるのが、基本功の部分であるように思います。
 例えば上歩拳の前拳や、単翼頂の後拳の位置についてですが、私は今まで肘を膝の真上に持って来ようとして、拳が少し内側に入り過ぎていました。曲げている方の肘はおよそ膝の真上と思われますが、伸ばしている拳は、両膝・両爪先・反対側の肘と同じ平面上のようです。
 すると、小架一路の上歩拳から両儀に変化するとき、右手の肘を少しだけ内側に締める必要があるのではと思い、過去の動画を確認してみたところ、確かにその様になっていました。改めて、疑問に思わないと見ていないものだなあと思いました。

 そして単打の中に、向捶と同じ性質のものが姿を変えて含まれているというお話は、単打に苦手意識のある私にとっては、大変な朗報です。
 ところが太宗拳の軋打は、向捶とは似て非なるものであるというお話はかなり意外でした。とても面白いです。
 前足の着き方、着く位置、練習と実用時との違い等など、今年の講習会もお宝が一杯で、宿題も一杯です。自分の前足を相手の前足の裏に進めるという事は、やはり爪先を内側に締めて、引き手を使って相手を投げる様な使い方もできそうですね。 呉氏三拳の中で、上歩しなくても打てる向捶は、冲拳、とう掌と補い合う様な関係なのでしょうか。下手の横好きは当面続きそうです。

 また以前から話題になっていましたが、呉連枝老師の動きは、コマ落ちしているといいますか、ある見えない時間帯があって、気付いたら招式が完成している様に見えます。ですから相手が打って来るのに合わせる場合、老師が「いつ」動き出しているのか非常に興味がありました。

 一方、なるべく普段の動作から啓歩を取り入れようとすると、どうしても最初の半歩分、時間がかかる様な気もしていました。ちゃんと身に付いていれば、そんな事はないのかも知れませんが、丁度「貴方が打つから、私も打つ」というお話がありましたので、「相手が打って来ようとするのを見てから、自分が啓歩で動き出しても、間に合うでしょうか?」と質問してみました。
 すると老師は「空(コン)があれば、自分からは近く、相手からは遠くなるので、見てからでも間に合います。」と仰いました。

 私は「時間が足りるかどうか」しか考えていなかったので、お話を聞いて一瞬パニックになってしまったのですが、後から考えてみますと、どうやら「空間や位置関係も含めて考えると大丈夫」という事ではないかと思いました。どうも私は誤解をしていたようで、後から動き出しても相手より先に当てればOKとか、そういう問題ではないのかも知れません。
 相手が打つつもりの場所に自分の体が残っていたら、危ない事に変わりありません。逆に「空」を作る事で急所を守り、最初の半歩も積極的に使って「相手からは遠く、自分からは近い」位置に入り込む必要があるのかも知れません。

 最近は対打の跪膝のときに、相手の前足の裏に自分の前足を進める様に御指導頂いていますが、考えてみますと、これは啓歩が前提になっています。小架一路の最初の拉弓式直後の半歩は、一直線上よりも外側に踏み出し、次の上歩拳は空を作りながら少し内側に打ち込む、というお話も以前ありました。
 また盤提にも強調された空がある様に見えます。掛けるのは非常に難しいといつも思いますが、相手がわざわざ掛け易い位置に踏み込んで来てはくれないでしょうから、踏み込んで来た時に掛け易い場所まで、軸足が移動しなければなりません。

 「啓歩を考えると間に合わない」のではなく「空を作って、啓歩も活用しないと打たれる」という事なのでしょうか。両方できないので、打たれる事確定ですね。扶手の練習内容も徐々に変わってきて、本当に自分の懐ギリギリまで打たせる様になって来ていますから、扶手が上達すると色々わかって来るのかも知れません。
 向捶のときも前足を相手の前足の裏に進めるべき、との事でしたので、今後は相手との位置関係や、半歩の踏み込む場所もイメージしながら練習してみたいと思います。あまりにも遠い道程で、少し絶望気味ではありますが。

 そして最終日の午後、各団体の諸先生方、諸先輩の皆様方には素晴らしい表演を見せて頂き、たいへん勉強になりました。誠に有難うございます。えー…私につきましては、お目汚し大変失礼致しました…至らない我が身を反省しながら、今年もちゃっかり呉連枝老師に色紙を書いて頂いたり、恐れ多い嵐のような全身マッサージを体験させて頂いたりと、身に余る幸せなゴールデンウィークでした。本当にバチが当たりそうです。

 最後になりましたが、今講習会におきましても長期にわたり熱心に御指導下さいました呉連枝老師、そして服部先生、本当にありがとうございました。そして各団体の諸先生方、諸先輩方、同門の皆様、今回も大変お世話になりました。心からお礼申し上げます。

土曜本部教室 高須 俊郎


両儀 呉連枝老師講習会第10回目開催記念表演会 両儀

単打集体 六合花槍
単打 劈掛拳
単打 六合花槍
単打 小架一路集体
提柳刀 小架一路
単打 扶手一路
石田先生・行者棒 長春八極拳・小架
長春八極拳・八極対接 長春八極拳・八仙剣
渡邉先生・四朗寛 森田先生・長春八極拳・散手
李英先生・長春八極拳・応手拳 松田隆智先生・小架一路
服部代表・九宮純陽剣  
  呉連枝老師・老架子
  最終日、参加者・来賓の方々との記念撮影。

2010年度、呉連枝老師招聘講習会レポート

 今年で10回目となった開門拳社主催の呉連枝老師を招聘しての講習会。メインテーマは「単打と対打」。今年は主に「表演について」と「八極拳に於ける対練套路」について詳細に学ぶことになった。

 「単打」―表演という視点からの研究―

 単打とは「大八極」「八極長拳」等と呼ばれる套路であるが呉氏開門八極拳に於いては単練として行う「単打」対練として行う「対打」を併せて「八極拳」とも言う。八極拳の三位一体の套路の一つであり、大きな動作と強大な発力を特徴としていて、八極拳の代表的な套路の一つである。

 今年の講習会は参加者のレベルが例年よりも高かったこともあり、一動作ごとに細かい解説が加えられ、今までよりも細密に単打を学ぶことができた。
 今回は「表演」というテーマがあったが、ここで言う「表演」とは得点を競う「表演競技」だけではなく、もっと広義な意味のものであった。
 套路は技撃の方法であり、練功法であり、格闘技に於けるコンビネーションという意味もあるが、それだけではなく戦闘思想を表現した「作品」でもある。「表演」という視点からこれを研究するということは具体的に言えば、この「套路という作品をより詳細に理解し、表現する方法を研究する」という意味である。
 一つの套路を理解し、表現するためには、まず詳細に套路を学習し、六大開、八打招、十大勁別、十大形意というような理論を研究し、表現出来るように練習する必要がある、それは技撃の学習という意味での武術からみても有意な事ではないだろうか。
 表演に求めるものは単なる見栄えなどではなく、理論やひとつひとつの単式をしっかりとした理解の上でなければ本当の意味で美しい表演は出来ないのではないだろうか。

 「対打」―八極拳の対練套路について―

 中国武術に限らず、戦闘技術の習得に対練はあまねく存在するが、呉氏開門八極拳の「対打」は単練套路である「単打」を二人で行うことにより、対練になるという中国武術界に於いても稀な対練法である。
 上記したとおり、単打は八極拳に於いてその特徴を示す套路である、その套路を対練で行うということでその戦闘技法をより細密に学習出来るシステムになっている。
 今回は対打の「うぇい手」をより詳細に学習することができた、「うぇい手」とは最も基本的であるが、いままで不明瞭だった部分をより明らかにすることが出来た。

 また、今回は呉氏開門八極拳の対練套路「扶手」を学習した。
 「扶手」は六世掌門人、呉秀峰公が以前より八極拳に伝わる「桃花散」という套路から作った物であり、全部で四路あるが、今回はその一路と二路を学習した。それぞれの特徴としては一路は接近距離からの攻防を主体としており、二路は劈掛拳の技法があり、三路と四路は化勁の学習が特徴となっている。

 今回「扶手」を学習することができたことにより、八極拳の対練におけるそれぞれの特徴をより理解することが出来た。
 もっとも基礎となる「対打」により、八極拳の特徴である「挨膀擠靠」等の接近距離からの攻防の方法を学習する、そして「六肘頭」により中、近距離の打撃の攻防を学習し、「扶手」により近距離からの打撃の攻防、腿法などを学習する。
 これらの対練套路は距離や戦闘法に於いて「対打」「六肘頭」「扶手」という順番で実戦に近くなっていくが、それぞれの套路に段階があり、戦闘法を理解する材料としてそれぞれが重要な役割を果たしている。

 これら先人達が残した貴重な資料である対練をしっかりと理解していくことが八極拳の戦闘法を理解する上で大きな手がかりになっているのではないだろうか。

 講習会を通して

 今回で十回目になる開門拳社による呉連枝老師招聘講習会ということで、今年は表演大会が行われた。関西で呉氏開門八極拳を練習されている石田泰之先生、「日本八極拳法研究会」代表の渡辺博文先生、長春八極拳を練習されている「長春八極拳伝習会」代表の李英先生やその生徒の方々、「八極拳研究会」代表の森田真先生、中国武術研究家の松田髓q先生、「両儀会」会長の佐々木稔先生など多くのゲストを迎えて盛大なものになった。
 武術という先人の残した偉大な文化を通して、他派の人々と介することができ、大変光栄だった。

 八極拳という戦闘思想を理解するためには、その結晶とも言える套路を学習することが有効である。もちろん套路という形を憶え、漫然と練習するだけでは効果は薄いが、そこの中にある物をしっかりと研究することは技撃、練功、理論を学習する上で大きな効果がある。
 そして単練の套路だけでは理解しがたい部分を対練套路や対練で学習していく。そして対練に自由度を増していき、自由な攻防に近づけてゆく、そしてまた、そこで研究した物を単練にフィードバックしていく、それが呉氏開門八極拳に於いて戦闘法を学習する一つの方法である。

 今回、呉連枝老師の技を受ける機会に恵まれ、そのすばらしい功夫に触れることができ、理論やテクニックなどではどうしようもない本質的な功夫の差を感じ、小手先の技術ではなくもっとより深く、八極拳を理解して行かねばならないと感じた。
 愚昧かつ未熟の身であるが、これからも呉氏開門八極拳という素晴らしい文化をすこしでも理解できるよう練習に励んでいきたいと思う。

 今回も手際よく講習会の取り仕切り、表演会の運営などをしていただいた指導員の方々、呉連枝老師の招聘、通訳、指導等々をしていただいた服部先生、そして貴重な套路、理論の解説等を惜しみなくしていただいた呉連枝老師には大変感謝しております。

大森教室 高久 慎司


 

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