今年のゴールデンウィークも、呉連枝老師を招聘しての講習会に参加させて頂きました。今年は初級講習二日間、槍の講習会の前半一日、四朗寛講習会三日間の参加でしたが、どの講習会も非常に内容が濃く、やはりあっと言う間の六日間でした。
この数年は毎回感じる事ですが、内容が年を追うごとに深くなり、初級講習会と銘打っていても、かなり核心に近付いた内容だったのではないでしょうか。私自身の理解の程度はともかくとして、大変貴重な機会に参加させて頂き、とても感謝しています。
初級講座では、五大歩型の立ち方から始まり、歩法についても、いつもより多くの種類を、時間をかけて御指導頂きました。
呉連枝老師は、三つの基本手型と八大手形について、また、五大歩型と十六大歩(歩形)についてご説明下さいましたが、その際に「型」と「形」の字を使い分けておられたのが印象的でした。 「型」は固定したもので、「形」は動きと変化を伴うものだそうです。
歩法の練習の中では、白馬翻蹄の回身が一挙動であったり、その後の単式練習に於いても、向錘や降龍の回身が一挙動だったので驚きました。
特に向錘については、鷂子穿林の足を使って、様々な方角へ連続で打ち続ける事ができると聞いて、一瞬頭の中がパニックになりました。最初の頃に教わった技についても、順調に(?!)難度が上がり続けていますが、よく考えてみますと、最初に習ったのは使い方のうちの一つなのかも知れません。今後は鷂子穿林を練習する時にも、白馬翻蹄や、向錘との繋がりを考えなくてはなりません。
また、どうしても向錘まわりの話題が多くなるようですが、引き手の肘を自分の身体から離さないというのも、今まではあまり意識していませんでした。ただこれも、相手に近付いてから引き手を変化させたり、左右を打ち替える時には絶対必要だなあと、後から思いました。とても好きな技が、とても難しくなった感じです。 また、発力の瞬間ぎりぎり一杯まで放鬆していなければならない、というお話を聞くに至っては、もう全ての動作が凄く難しく感じます。
啓歩を教えて頂くまでは、キッカケがなくて前に出ようとすると、いきなり力んでしまうのが常だったので、啓歩は放鬆の為にも重要なのではないかと感じています。
そして今回何よりも驚いたのは、小架の定式は全て両儀の変化だが、定式と定式の間は両儀ではない、というお話です。両儀はとても安定した形だと思いますが、冲拳で上歩する直前に一瞬不安定な形になったり、不安定から安定な状態になる時の差額の力というのもあると聞いていましたので、定式の手前が両儀なのか疑問に感じてはいたのですが、全く想像していなかったお答えが返って来たので、面喰ってしまいました。
服部先生の仰る通り、今回の初級講習会は、初級という切り口ではあっても、とても高度な内容だったと思います。
続く槍の講習会では、槍の基本功に始まり、六合花槍の套路や拳譜について御教授頂きました。槍の最重要点は三尖相照、つまり鼻先、爪先、槍先が、一つの平面上に存在する事だそうです。そして三尖相照から槍先の動く範囲は原則、上下は頭の高さから地面まで、左右は肩幅の範囲内でという事なので、もしかするとこれが、槍の動作が全て縦方向に見える理由なのかもしれない、と思いました。
花槍の套路については、相変わらず順番だけは覚えている、という程度で反省しきりなのですが、それ以上に今回気になったのは劈杆子の事です。今回は仕事の関係で二日目の講習には参加できなかったのですが、そこでは劈杆子を重点的に学習したと聞きます。私は劈杆子は殆ど練習した事がなかったのですが、四朗寛講習会の昼休みに誘って頂いて「これは練習しなくちゃイカン!」と思いました。
套路ではラン・ナー・チャーの順で練習する部分が多いのですが、実際の用法ではラン・チャーか、ナー・チャーのどちらかです、というお話を聞いたからです。これは劈杆子そのものなのに、殆ど練習していないのは、やっぱりマズイです。
最後の三日間は四朗寛講習会でした。まずは套路の順序からじっくり、と思っていたら、何と順序そのものは、初日の午前中で一巡してしまいました。套路を覚えている参加者が多かったせいでしょうか、残りの日程は、かなり長時間かけて、用法や拳譜の解説に割いて下さいました。その分確実に、内容は深くなって来ていると感じます。
まず用法についてですが、今回呉連枝老師は、套路のほぼ全ての動作について、表に見えている代表的な用法までは理解できるようにしましょう、と仰いました。四朗寛はとても長い套路ですので、全ての動作の用法を一通り見せて頂くだけでも、かなりの時間がかかります。しかし、一つひとつの用法についても、当然もっと多くの意味が含まれているでしょうから、改めて気が遠くなります。
四朗寛が長年秘密であった理由の一つは、盤提の使い方や、そこからの変化が沢山示されているからだそうです。確かに盤提歩や跟提歩は、呉家の八極拳の特徴的な歩法であると聞きます。特に今回印象に残っているのが、下盤の使い方である吃根や埋根が変化してゆく過程で、いつでも盤提や白馬翻蹄に繋げる事ができるという事でした。その時にもやはり啓歩を使っていると思われるので、このあたりの歩法の難しさは、もう半端じゃない感じです。
套路の三歩半でも、三歩半の手前までは、啓歩なしでも何とか形を真似ることができそうですが、三歩半そのものは、啓歩の事を教わっていないと足が正しい位置まで届きません。ところが一旦啓歩の事を教わってしまうと、今度は他の全ての動作も、練習をやり直さなければならない感じです。
全ての動作は丹田から起動して、丹田から発力するという事も、呉連枝老師は以前から仰っていたのですが、今回は三つの丹田を用いて、より詳しく解説して下さいました。三つの丹田は常に同時に動き、丹田から起動する方法は、歩法だけではないそうです。
回頭を使って、上の丹田「天突」を回す事ができるというのも驚きでしたが、これを上歩拳や上歩掌の時にも使っているのかも知れません。それに、三つの丹田が同時に動くと、三盤が同時に動くというお話は、自分でできるかどうかは全然別としても、より理解し易いと感じました。
そして、初級講習会でも見せて頂いたのですが、四朗寛の中の挑勾子という投げが、あんな恐ろしい用法だとは思いませんでした。使い方は別子に近いと聞いていたのですが、こちらは相手の身体を巻き込む上、更に真っ逆様にしてしまいます。他門の先生方をはじめとして、多くの方が呉連枝老師にこの技を掛けて貰っていましたが、明らかに発力せず、安全に引っ掛けているだけの筈なのに、まあ体ごと飛ぶ飛ぶ… こんなところで発力されたら、一体どうなってしまうのでしょう。
掛けて貰った方にも聞いてみたのですが、やはり掛かる瞬間まで、一切の力を感じなかったそうです。それで、初級講習会の「発力の瞬間ギリギリまで放鬆のまま」というお話を思い出しました。
技が掛かる寸前まで力が出ていないので、相手にとっては気配がゼロのところから、殆ど一瞬にして上中下盤を根刮ぎ持って行かれてしまう様です。これでは反応のしようがありません。これが打シュワイ(打ちながら投げる)の怖さなのか、と思いました。
また呉秀峰公が「遠打折江 近打肘というのは逆ではないか」と仰っていたというお話も、とても印象的です。大折江の様に大きな動作の技を近くで使って、肘の様に短いものを遠くで使うというのは、見た目の印象とは逆なのですが、折江は大きく動くというだけで遠くを打つ訳ではないですし、肘を遠くで使うのは防御の為であるとのお話を伺うと、やっぱり玄人の物の見方というのは凄いものなんだなあと思います。
そして、十大形意と十大勁別について、六不輸について、傳統八極拳法六字訣と呉秀峰公傳技撃六字訣についてと、講習内容はどんどん高度になって行きます。
十大形意は、十種類の動物のそれぞれ優れた性質を表していて、十大勁別は十種類の力の出し方を表しているそうです。両者は対応関係にあり、四朗寛の全ての動作の中には必ず、最低三つ以上が同時に含まれるそうです。この辺りになると、これから四朗寛を練習する時に、どの様に参考にしたら良いかも解らなくなってきます。
今回の講習会で公開して頂いた事は全て、その後の練習効率が変わる事はあっても、逆に教わった日に、何か解ったり出来るようになる訳ではないと思いました。焦らず、練習サボらずを、今までの自分に対する戒めにしなければと思います。
最後になりましたが、本当にいつでも笑顔で、私達一般の学生にまで熱心に御指導下さった呉連枝老師には、感謝の気持で一杯です。
そして、毎年大変な思いをされて、呉連枝老師の招聘手続きに始まり、期間中の通訳までこなされ、私達にも広く学習の機会を与えて下さった服部先生、そして期間中様々な形で面倒を見て下さった拝師弟子の皆様、そして同門の皆様には大変お世話になりました。心からお礼申し上げます。有難うございました。
本部教室 高須俊郎 |